【評価拡充が確実視】服薬フォローアップ /誰にどうやったらいいのか?見えてきた個別化の手法

【評価拡充が確実視】服薬フォローアップ /誰にどうやったらいいのか?見えてきた個別化の手法

【2023.08.04配信】中医協でも令和6年度調剤報酬改定の議論が本格化してきた。そんな中、評価拡充が確実視される業務として関係者が捉えているのが服薬フォローアップだろう。各薬局では薬機法改正も契機の1つに取り組みが増加しているが、その手法は確立はしておらず、漫然と調剤後に患者に電話をしたりしている事例もあるのではないだろうか。そんな中、誰にどのようにフォローアップすることが効果的なのか、それをより具体化し、薬局・薬剤師にとって非常に役立つ資料となるのが、先ごろ公表された厚労科研の調査研究だ。研究名は「薬剤師の職能発揮のための薬学的知見に基づく継続的な指導等の方策についての調査研究」(研究代表者:東京薬科大学薬学部益山光一氏)。


355の事例からフォローアップを体系化/フォローアップする理由を明確化できれば、その時点でフォローアップのゴールが設定できる

 研究は355の事例収集からフォローアップを体系化。まずはフォローアップが必要な人については、大別すると次の9つになった。①新規処方・処方変更時、②服薬アドヒアランス不良、③ハイリスク薬処方時(副作用の問題や患者に不安があるケース等)、④手技不良時(自己注射や吸入器等)、⑤副作用等発現時(自覚症状を含む)、⑥ポリファーマシー・相互作用の可能性、⑦服薬に関する不安、⑧退院時、⑨新薬(承認又は効能追加された5年以内のもの)処方時――だ。そして、患者に対して、この9つの要素に該当しないか、「前評価」を行う。さらには、前評価で患者ごとにフォローアップする理由を明確化できれば、その時点でフォローアップのゴールが設定できる。

 今回の研究の大きな成果の1つは、この「前評価」から理由抽出、手法選定、実施、後評価、医師への情報提供といったアクションまでの一連のフローチャートを細分化したことにもある。

 具体例を挙げれば、糖尿病の重症化で入院していた人が退院した場合。まずは退院という生活環境が変化するフォローアップ対象になる。9つのうち⑧の「退院時」に相当する。そして、ゴールは退院という自らで服薬を管理しなければいけない状況下において、それを実践する、すなわち平たく言えばアドヒアランスの確認と向上を支援することになる。

アドヒアランスに大きな影響を及ぼすことが分かっているのが患者の“信念”/医薬品に対する信念の国際的尺度である「BMQ」 (Beliefs about Medicines Questionnaire)

 研究代表者の益山氏は本紙に対し、最も重要なことは「個別最適化を評価する流れ」だと指摘する。例えば、なぜ、“その患者”は入院に至るほどの糖尿病の重症化に至ったのか、何がそれに影響を与えているのか、改善のために取り得る手法は何か――。患者ごとに抱える背景は違う。

 フォローアップが必要な患者の要素には、前述した通り、新規処方や副作用といった薬剤に関わるもののほか、退院など環境の変化によるものなどがある。こうした医薬品そのものや環境以外に、アドヒアランスに大きな影響を及ぼすことが分かっているのが患者の“信念”である。平たく言うと、その医薬品を服用することで自分の病気がよくなると信じているかどうか。これについては、医薬品に対する信念の測定尺度としてBMQ(Beliefs about Medicines Questionnaire)という国際的尺度がある。

 今回の研究では、若手研究者がBMQなどの諸外国の取り組みを翻訳し、その解釈を複数の国内研究者と議論している。BMQの差は治療効果に直結することが分かっており、それは結局、アドヒアランスに大きな影響を及ぼす要素だからである。したがって服薬フォローにおいても、薬剤師がこのBMQに課題のある患者を見つけることは価値が大きいと考えられる。

 例えば、糖尿病が重症化して入院、その後退院してきた患者においても、そもそもなぜ服薬をしなければいけないかを十分理解していなかったり、適切な服薬をしないとどのようなことが起こるのかが分かっていなかったりすると良好なアドヒアランスは維持できないだろう。特に重症化するまで自覚症状が少ないような生活習慣病の場合は、そういった理解が乏しいことがアドビアランスの問題につながる可能性がある。逆にそういった「薬識」を上げることができれば、アドヒアランスを高めることで再入院率の低下にもつながり、ひいては医療費の適正化につながる可能性もある。

 益山氏は薬剤師がこのような患者の薬識が高まるような、患者との親身な対話の場を持つようになることを目指していくべきではないかと提案する。それは、いわゆる薬剤レビューの実施ということでもある。その根底には、薬剤師が個々の患者を見て薬物療法を担うべきとの考えがある。その個別化に有効なツールの研究が進展しているといえるだろう。益山氏は「対物・対人を分けるのではなく、患者、“人”を全体として見ることが重要なのではないか」と強調した。

薬物治療に影響大きい「入退院」/海外で論文多数の治療環境の遷移「TOC」 (Transition of Care)/Walgreen薬局の薬剤師が退院後48時間以内に服薬状況のフォローアップ

 治療に大きな影響を与える環境の変化として、海外では“治療環境の遷移”「TOC」 (Transition of Care)で数多くの論文がある。今回の研究でも、この「TOC」についても取り上げている。

 “治療環境の遷移”というと少し大仰に感じるが、その典型は日本でもその重要性が指摘されてきた「入退院」である。研究からは改めて海外でも入退院のタイミングが重視されていることが再認識される。

 研究報告によると、まず「入院」では、米国では持参薬リストの作成だけでなく、各薬剤の服用状況の確認を行うことが病院評価機構から課されているという。また、「退院」においては、病院も従来は退院までが業務範囲であり、退院後のフォローアップは積極的に行ってこなかったというが、米国では「再入院抑制プログラム」が導入され、同じ疾病名の再入院率が高い場合には病院に大きなペナルティが課せられることとなったこともあり、取り組みが進展。例としては、大学病院と近隣のWalgreen薬局が連携。Walgreen薬局の薬剤師が退院指導を行い、退院後48時間以内に服薬状況のフォローアップを行っており、治療継続と再入院の抑制に努めているという。

国際標準となる症例報告の書き方に関するガイドライン「CARE」(Case Report)/益山氏「日本の薬剤師が世界に研究を発信する未来を」


 今回の研究ではこうしたBMQやTOC以外に、国際標準となる症例報告の書き方に関するガイドライン「CARE」(Case Report)を取り上げている。CAREの研究は、すなわち、取り組み結果のアウトプットに視点を当てたものだ。

 益山氏は「フォローアップで終わるのではなく、分析評価した結果を医師やほかの職種と情報共有して欲しい」との前提を指摘した上で、さらに、国際標準のCAREにのっとり医師でいう症例報告をできるようになって欲しいと期待を込める。「5年後、10年後を見据えて研究している。けれど6年制の薬学では、入学生が卒業するのはもう6年後。5年、10年はそんなに先のことではなく、今から取り組む必要がある」(益山氏)。

 益山氏はCAREによって日本の薬剤師が世界に貢献する研究を発信する未来を夢描く。「薬局も医療人はやはり研究者でなくてはいけないと思っている。何も基礎のことだけではなくて臨床現場から研究する。日本は世界一薬剤師がいて、高齢化も世界一。その日本がこの超高齢化社会の中で薬剤師がやっていることを世界に見せて、薬剤師がこれだけいると、こんなにケアの行き届いた充実した良い医療が受けられるんだと、そういうことエビデンスを作っていきたいなというのは、思いとしてはあります」(益山氏)。

【編集部より】

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